スポーツ別の予防と要因 - Sports Prevention -

スポーツ外傷・障害はウォーミングアップ不足、筋肉の柔軟性の低下や左右差、筋力の低下や左右差、不可抗力の外力、アンバランスなフォーム、痛い部位をかばって他部位へ負荷がかかるなど様々な要因により生じます。これらの要因を追究し、スポーツ外傷・障害を予防するために、メディカルチェックを行っています。スポーツ障害をきたしやすい問題があれば、それに対処するための指導を行い、障害予防や競技レベル向上を図っていきます。

バレーボール

ジャンパー膝

大腿四頭筋(太ももの前面の筋肉)がジャンプ動作で酷使されることにより、膝のお皿の骨を中心とした上下スネの出っ張り部分が傷みやすくなります。片方の痛みが出たら両方の膝に痛みが出る確率が高いです。突発的な怪我でないため、どうしてもさぼっていると誤解されたり、痛くても何とかプレーできてしまうので医療機関を訪れるころにはすでに重症というケースが多いので、気をつける必要があります。うつぶせに寝てかかとがお尻につかない人は要注意です。
ジャンパー膝の痛みのタイプは、初期は練習後に膝が痛むタイプ、中期では練習中にも痛み、もっと悪くなるといつも痛いという状態になります。まれに腱が断裂してしまうこともあるので、十分な注意が必要です。
治療はストレッチが最も有効的で、予防のためには練習に限らず四六時中やったほうがよいでしょう。毎日の練習後に膝をアイシングすることも大切です。

腰痛

バレーボールにおける腰痛のほとんどは筋肉や筋膜の肉離れや使いすぎによる慢性疲労性腰痛でこれが急に起こった場合一般的に「ぎっくり腰」と呼んでいます。急性のものはアイシングをほどこし、慢性的な腰痛は温めてやるとよいといわれています。
腰痛の対策としては柔軟性の獲得に努めることです。ストレッチは治療法でもあり最高の予防法でもあります。
他には練習の合間にバスタオルでよく汗を拭き、体を冷やさないようにすること、練習後は必ず入浴し、翌日に疲労を残さないこと、物を持ち上げるときはなるべく膝を曲げることなど日常生活においての自己管理も大切です。
立位体前屈で手のひらが床につかない、長座位(足を伸ばして床に座る)前屈で手が足に届かない、仰向けに寝て足が垂直に上がらない、膝を抱えて胸につかない、うつぶせに寝て逆えびぞりができない、などにあてはまる人は、腰痛予備軍ですので注意が必要です。

肩関節障害

バレーボールにおける肩関節障害の原因の多くはオーバーユースによるものです。アタックの動作は野球に比べると大きく空中で重いボールをヒットします。すると手は打点で止まってしまいそれまで動いていた肩の筋肉や腱の動きもそこでストップする非生理的動作です。こういった不自然な使いすぎで肩を上げる筋肉、腱が徐々に磨耗して関節を安定させている腱版を損傷してしまいます。
対処法としてはストレッチが有効です。肩のストレッチにはぶら下がりが最も有効です。また肩の筋肉を強化するため2キロくらいの軽いダンベルを使ってトレーニングするとよいでしょう。ストレッチと同様に練習後に、肩の熱や痛みをとることも大切です。
バレーボール選手に多い肩の障害は「動揺肩ルーズショルダー」です。もともと肩の関節が緩い人、弱い人に多く、スパイクを打つと肩が痛くなります。特に青少年は肩に負担がかかりすぎて肩痛や亜脱臼の原因になります。
また、「肩関節亜脱臼症」は無理な体勢や打ちすぎで疲労がたまってくると起こる亜脱臼で、いわゆる"外れる"感じがあるものです。「腱板損傷(ローテーターカフ損傷)」は肩の酷使によって、肩を上げる筋肉や腱が受ける損傷。「インピンジメント症候群」は肩の中で腱が骨に当たって引っかかる障害です。

捻挫

足関節部の靱帯損傷、いわゆる捻挫はバレーボールで最も多い急性(突発的)障害です。スパイクやブロックの時、味方や時には相手の足の上に乗って足首を内返し(内反)してしまい、外くるぶしの靱帯が伸ばされてしまうのです。
捻挫は軽症(Ⅰ度)、中症(Ⅱ度)、重症(Ⅲ度)の3段階に分かれます。重症のⅢ度損傷は捻挫の中でも特に足関節靱帯損傷と言います。足首を捻挫すると主にくるぶし周辺が内出血のために腫れてしまいます。そしてジャンプした時に痛みやぐらつき感を生じます。
捻挫を起こしてしまったら「RICE療法」という治療をして下さい。「R:Rest(局所の安静)」、「I:Icing(熱を取り、痛みを軽減)」、「C:Compression(包帯等で圧迫、出血を抑える)」、「E:Elevation(患部を高くして出血を抑える)」という意味です。
捻挫の予防には足首の柔軟性が大切です。やはりストレッチや筋力トレーニングは必要不可欠です。
また練習でも試合でも常に足首専用装具を付けておけば、突発的な内反や外反から足首をガードできます。

バスケットボール

足関節捻挫

スポーツ外傷の中で最も多いケガの一つです。足部の「内側ひねり」による内反(ないはん)捻挫と、足部の「外側ひねり」による外反(がいはん)捻挫があります。圧倒的に内反捻挫が多く、この場合は外側くるぶし周囲の靭帯の損傷(この場合は靭帯が引き伸ばされること)であり、逆に外反捻挫では内側くるぶし周囲の靭帯の損傷となります。
症状としては痛み、腫れ、運動痛などがあり、関節の可動域(本来動かすことのできる関節の角度範囲)の異常などが見られます。
初期治療にはRICE処置(「ケガの応急処置」にて解説)が効果的です。痛みのなくなった段階でのリハビリテーションとして筋力強化(つま先立ち、かかと立ち)などが効果的ですが、これは足関節捻挫の予防にもなります。関節の不安定性(グラグラする)が強い場合は手術をすることもあります。

疲労骨折

疲労骨折は「金属疲労」という言葉から由来されたものです。スポーツ動作により繰り返し強い力が加わると、骨に微小なストレスが蓄積されていくため、骨に微小な骨折が生じます。またそのまま放置しておくと完全骨折にいたります。
脛骨(けいこつ:すねの骨)、中足骨(ちゅうそっこつ:足の甲の骨)、腓骨(ひこつ:すねの骨)などに起こりやすいですが、肋骨(ろっこつ)、大腿骨、骨盤、膝蓋骨(しつがいこつ:膝のお皿の部分)などにも起こります。また骨の柔らかい若年層に多く発生し、高校一年生が本格的に部活動に参加する6月から夏にかけて多発します。
主な症状としては運動痛と圧痛があり、初期の場合は軽い運動ができることもありますが、進行すると運動することが困難になります。したがって運動時に関節以外の部位を痛がる場合には疲労骨折を考慮する必要があります。
ほとんどは1~2ヶ月の練習中止で治りますが、一度生じると慢性化することが多いため、疲労がたまらないようにすること、練習が単調にならないようにすることが大切です。

ソフトボール

特に投手は投球動作を繰り返すことで肩や肘に負担がかかります。
それにより、野球肩・野球肘と言われる慢性障害を引き起こすことが多くみられます。
投げすぎだけではなく、投球フォームによっても傷害を発生させることがあり、負担のかからない投球動作を習得することが、傷害予防につながります。
肩・肘だけではなく、体幹を支える腰背部、膝関節、手関節などにもスポーツ障害がみられます。
投球動作だけではなく、打撃・走塁に対する良いフォームを身に付ける必要があります。

野球

投球における肩の痛み(野球肩)

野球肩とは、野球の投球動作によって引き起こされる様々な肩関節障害の総称です。 野球の投球動作はワインドアップ期、コッキング期、加速期、減速期、フォロースルー期の五相に大別され、 各相において引き起こされる障害が異なりますが基本的には肩の使いすぎによって起こるものが大半です。

ワインドアップ期

最高の力と速度を発揮するための準備の相でここでの肩の傷害はほとんどありません。

コッキング期

肩に外旋が強制されることにより、肩の前方の関節包や肩甲下筋が引き伸ばされて肩前面に痛みが誘発されます。

【主な肩の傷害】

肩峰下インピンジメント症候群・ベネット損傷など

加速期

肩の外旋から内旋への動きが強制され、きょく上筋腱が烏口肩峰アーチの下でこすられるため痛みが誘発されます。

【主な肩の傷害】

肩峰下インピンジメント症候群・腱板損傷、断裂など

減速期

肩の内旋と前腕の回内が強制されて腕が前方に振り出されるため、肩後方の筋肉が収縮しつつ牽引されるという力が生じます。そのため、肩の後方に痛みが発生することがあります。

【主な肩の傷害】

スラップ傷害・ベネット損傷など

フォロースルー期

腕が降り抜けて肩甲骨の外転が強制されます。このさい肩甲骨の上を走る神経に傷害を起こすことがあります。

【主な肩の傷害】

肩甲上神経の損傷によるきょく上、きょく下筋の萎縮など

肩峰下インピンジメント症候群

腱板や肩峰下滑液包が肩の動きの中で烏口肩峰アーチに繰り返し衝突することにより、 腱板の炎症、変性、肩峰下滑液包炎が生じる病変です。さらに刺激が加わり続けると最終的には断裂することがあります。

スラップ損傷

関節かと関節包とをつなぐ線維性の軟骨が投球動作による繰り返しの負荷により 肩関節上方の関節唇(上腕二頭筋長頭腱付着部)が剥離、断裂するもので投球時だけでなく日常生活においても痛みや不安定感を感じます。

ベネット損傷

投球によるオーバーユースで生じる肩甲骨後方の骨きょく形成をいい、後方の関節包と 上腕三頭筋が引っ張られ、付着部に変形性関節症様の変化が起きるとされます。

リトルリーガーズ肩

成長期の選手が投球によるオーバーユースにおいて上腕骨近位骨端線の離開を生じる疲労骨折の一種です。 成長障害の原因にもなりますので早急に投球を禁止する必要があります。

サッカー

ゴールキーパー以外は手を使うことはできず、下肢のみでボールをコントロールするため非常に下肢の傷害が多い種目です。サッカー特有のキック動作によるものや、ジャンプ、ダッシュ、スライディング、サイドステップ等、その動きは多岐にわたります。
また相手と競り合ってボールを支配しようとするため、接触プレーによる外傷もみられます。

テニス

急性外傷

ほとんどが脚におこり、その中でも足首の捻挫が最も多い。捻挫といっても靭帯の微細な断裂から完全断裂までさまざまである。コート上で起きた場合にはRICE処置をおこなう。RICE処置とは急性外傷に対する応急処置で、Rest(安静)・Ice(冷却)・Compression(圧迫)・Elevation(挙上)をおこなうことにより、外傷後の腫れや痛みを防止する効果がある。靭帯が修復されるのには最低6週間はかかり、中途半端にテニスを再開すると治りかけた靭帯がまた傷むので注意する。その他にもアキレス腱断裂やテニスレッグといわれるふくらはぎの肉離れも多い。この場合にもRICE処置をおこなった後に病院に行くのが望ましい。

オーバーユース

テニス肘やテニス肩がある。テニス肘は手首を動かす筋肉が肘に付着する部分が炎症をおこすことで発症する。特に初心者がバックハンドを打つことでおきることが多く、肘の外側が痛む。ガットのテンションやフォームに注意し、プレイ前のストレッチをしっかりおこなう。上級者になるとフォアハンドの強打で肘内側が痛むこともある。
テニス肩は肩の中の腱板が腕を上げた際に肩甲骨とぶつかり炎症をおこし、サービスやスマッシュで腕を上げた時に痛むことが多い。肩の腱板トレーニング(インナーマッスルトレーニング)やストレッチをおこない予防・治療する。オーバーユース障害で痛みが強い場合には、練習を休みその部分のストレッチやフォームの見直しをすることが重要で、中途半端に続けていると腱の炎症は悪化し続けるので注意する。

ジュニア選手の障害

成長期には筋肉より骨の成長が速いため、筋肉は相対的に短くなり固くなる。その結果、膝蓋腱の付着部の骨が剥離するオスグッド病や膝蓋腱の炎症(ジャンパー膝)などがおこりやすい。ジュニア選手は自分が今どの程度成長しているのかをしっかり知っておく必要があり、定期的に身長測定をしておくことが望ましい。この成長スパートの時期にはしっかりストレッチをおこない、もし障害をきたした場合には練習を休む勇気も必要である。

熱中症

熱中症とは体の内外の‘あつさ’が原因で発生する障害の総称で、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病などに分けられる。熱失神は皮膚血管の拡張によって血圧が低下、脳血流が減少しておこるもので、めまい、失神などがみられる。熱疲労は大量の汗をかき、水分の補給が追いつかず脱水がおこり、脱力感、倦怠感、めまい、頭痛、吐き気などがみられる。このような状態になったら、涼しい場所に運び、衣服をゆるめて寝かせ、水分を補給すれば通常は回復する。吐き気やおう吐などで水分補給ができない場合には病院に運び、点滴を受ける必要がある。

熱射病は体温の上昇のため中枢機能に異常をきたした状態で、意識障害(応答が鈍い、言動がおかしい、意識がない)が特徴で、頭痛、吐き気、めまいなどの前駆症状やショック状態などもみられる。進行すれば、全身臓器の血管がつまって臓器障害を合併することが多く、死の危険のある緊急事態である。そのため体を冷やしながら集中治療のできる病院へ一刻も早く運ぶ必要がある。いかに早く体温を下げて意識を回復させるかが予後を左右するため、現場での処置が重要で、熱射病が疑われる場合には、直ちに冷却処置を開始する。冷却は、皮膚を直接冷やすより、全身に水をかけ、濡れタオルを当てて扇ぐ方が、気化熱による熱放散を促進させるので効率がよくなる。また、頸部、腋下(脇の下)、鼠径部(大腿部の付け根)などの大きい血管を直接冷やす方法も効果的である。